2013年1月30日水曜日

漢字「法」の成り立ちと由来



 ""の繁体字は"水+廌(鹿と馬に似た珍獣)+去”を合わせて書く。漢字源よると「池の中の島に廌を押し込め外に出られないようにした様」を表しているということで、伝説上の動物の名前で、悪者に触れてその非を糺すという性質があると信じられている。
 今日はこの「法」について、もう少し深く解説したい。 

引用 「汉字密码」(P894 唐汉,学林出版社)

「説文」の解釈
  「説文解字」はこの字を解釈して、廌を解き放すことだとした。牛に似て、角が一本で、古代の人は訴訟を決定し、正直でないものに触れて、その非を正す性質があるとされた。
   許慎が見るところによれば(多くの古人も含め)「廌+去」の字の造りの意味は、歴史的伝説から出ている。

「法」の字にまつわる伝説

 春秋の時期、斉の庄公はある壬里の臣下が、中里の臣子を相手取って訴訟を起こした。罪状が判断付きにくかったために、斉の庄公は直ちに「を、即ち神獣獬豸を呼んで彼ら二人の訴状を読ませた。 結果里国の訴状を読み終わっても獬豸はなんら動きを表示せず、一方、中里の訴状の半分も読み終わらぬうち、獬豸は角で彼を翻した。こうして斉の庄公は壬里国の勝訴の判決を下した。
 かくして、この種の角で罪があるかないかを断じる方法が、漢字「サンズイ+廌+去」の字の構造の中に割り込ませることになった。漢の法官の冠にはこの神獣の角を形どった物が使われていたということである。

金文の「法」の字の生れた由来

 実際上、金文中の法の字は古代の現実の生活の中から来ている。右辺は一頭の水牛の象形で、左辺の上部は「大」(人を表す)+口(地の穴)の構成の「去」の字である。下部は即ち水の象形の描写である。三つの形の会意は、人が水牛の水中遊泳の方法を見習うことが出来ることを示している。あるものは水牛ではなくいわゆる神獣であると説く。いずれにせよ、小篆の法の字は金文を承継しているが、ただ書の法の字は廌の形を省いて、「法」と書く。

「法」の字の本義

 法の本義は「真似る・模倣」することである。「商君の書・更法」の如く、「治世不一道,便国不必法古。」 この事は国家を治めるには一つの道だけではない。ただ国家に有利にするには、必ずしも古きを模倣することではないという意味である。法は模倣の意味。また拡張され、「手段・方法」を表す。また更に拡張され、「見本。標準」の意味にも用いられる。 
「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。

2013年1月1日火曜日

命:漢字の起源と由来


   最近の宇宙工学の発展は、地球以外の天体に生命体が存在するかもしれない可能性を我々に示してくれる。最近発表された水星に極冠の地があり、水?が存在する可能性すら示唆している。このようなニュースに触れるにつれ、この生という響き、中でも「命」という漢字をわれわれは特別の響きを以て捉えているように感じる。「生ある限り」など、その言葉は何かしら聞く人にみずみずしい響きと感性を与える。しかしその漢字はもともと古代ではどのようにつかわれたのであろうか?探ってみたい。

引用 「汉字密码」(P650,唐汉,学林出版社)

「令」と「命」は同じ源

「令」と「命」は同じ源を持つ漢字である。甲骨文字の「命」の字は、上部は男の露出した生殖器であり、下部は一人の膝まづく人を表している。この命の字は令の字と完全に一緒のように見える。
 金文の左下隅には口が一つ加えられているが、これは単に人を膝まづかせて臣服させている示しているにとどまらず、口を用いて命令を発布していることを表している。小篆の形は金文から直接変化し、楷書では命と書く。命の字の本義は口で命令を発している。即ち上級が下級に指示を発すること。


上古の統治者は臣下に命令を生命と同じに見ることを要求した

 命令に従い君に利することを順というが、命令に従い君に利しないことを諂いという(へつらい)。この事は命令を聞いて国君に有利に働くことを忠順といい、命令を聞いて国君に不利に働くことを媚びへつらいという。
 上古の統治者は臣下に命令を生命と同じに見ることを要求した。いわゆる「命」の字は拡張して生命或いは持ち前の生命を意味するようになった。《论语•雍也》の中の記載で顔淵が「不幸にして短命で死んだ」とある。


「命」の字は上級が下級に命令の下達、「令」は一般的に「させる」という意味

 古人は社会の統治の乱れ国家の興衰が個人の幸せと禍失敗と成功が皆天意の采配によるところと認識していた。この為「天命、命運」等という言葉がある。
 「命」と「令」の言葉には皆「使役」の意味がある。但しわずかな違いがある。「命」の字は専ら上級が下級に命令の下達の意味に用い、「令」は一般的に「させる」という意味に用い、動詞に用いる。「令」は時に目的語を伴わないこともある。 
「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。